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「頭が痛い・・・」 しかめっ面をしながらこめかみを押さえているルルーシュに、それはそうだろうとスザクは内心ため息をついた。ルルーシュが起きるまで、膝枕をしつづけたため、若干足がしびれている。我慢し続けた自分を褒めてほしいぐらいだ。 「・・・枢木、水をくれないか」 朝食も碌に食べられないほど弱っている人に、水を注ぎ入れたグラスを渡した。 「殿下、お水です」 渡したクラスに口をつけたあと、こちらを見て眉を寄せた。 「お前はさっさと食事を終えろ。目障りだ。・・・ああ、食事をし、支度を終えたらメイド長を呼んで来てくれ」 「・・・はっ、ではお先に頂きます」 目ざわり。 昨日とは一転し、元のルルーシュに戻ってしまった事が心底残念でならないが、あれはあれで体に悪い状況だったなと考えながら、手早く食事を済ませた。項垂れるルルーシュはそのままにし、身支度を整えると部屋を出た。扉の外にはジノがいて、いつも通り元気に挨拶をしてきた。 「おはようスザク!今日もいい天気だぞ!」 がっしりと肩を組み、じゃれついてくるジノは大型犬のようだった。 そう思えば可愛げもあるのだが、寝不足で疲れきっている今、このハイテンションに付き合うのも辛い。それに重い。 そんな体重を肩に感じながら、メイドの部屋へ足を向けた。 「おはよう、ジノ」 歩き出しても腕は外してくれないらしい。 重い、うっとおしい。 「・・・どうしたスザク、なんか疲れてないか?」 「ああ、うん、ちょっとね」 「寝不足みたいな顔をしてるぞ?」 ジノから笑みが消え、真剣な表情でこちらを見てきた。 護衛として来ているラウンズなのに、睡眠不足で本調子が出ないなど、あってはならない事だ。護衛にも支障が出かねない。ジノが不機嫌になるのももっともな話だった。 「大丈夫、問題は僕より殿下の方だよ」 ひどい二日酔いで唸っている姿を思い出す。 一回吐かせた方がいいかもしれない。 水分も沢山取らせなければ。 「・・・殿下が、どうかしたのか?」 ジノの声が固く、低くなった。 深酒をし過ぎてよっぱらって現在二日酔いと言っていいのだろうか? どうなのだろう? 「少し体調を崩されて・・・ふあぁ」 我慢しきれず、欠伸をしてしまう。 ただの徹夜なら平気だが、こんなに神経をすり減らした徹夜は堪える。 肩を組んでいた腕が解け、ジノは歩みを止めた。どうしたのだろうと思い振り返ると、ジノは今まで見たことのない様な形相をし、こちらを睨みつけていた。 「ジノ?」 声をかけるが返事はなく、気がつけば手袋を投げつけられていた。 「・・・えーと・・・決闘だよね?どうして?」 「解らないかスザク。私がどうして決闘を申し込んだか」 「全然解らない」 心の底からそう言うと、ジノはフルフルと震えだした 「私が幼いころからお慕いしていた殿下に、昨夜何をしたのか忘れたとは言わせない」 「昨日僕が?いや、殿下にされた記憶しかないけど」 僕は何もしていない。 酔っぱらった殿下のまくら代わりになってただけだ。 それが何だというのだろう。 ああ眠い。 眠くてジノの言葉の半分も頭に入らない。 眠気覚ましになるもの、メイド長持ってないかな? 「された!?殿下に!?いや、殿下も男性だから・・・スザクは童顔だし・・・」 「・・・今、僕が童顔なの馬鹿にした?」 「くっ、私がスザクぐらい小さくて、童顔だったら!」 殿下は私を選んでくれたかもしれない。 正直言えば嫌だが、殿下と関係が持てるならそれでもよかったのに。 「ねえ君、今さらりと僕を馬鹿にしてるよね?」 小さい?日本人にしては結構大きい方だし、ルルーシュとあんまり変わらないよ。しかもまた童顔って言った。 「羨ましいと言ったんだ!殿下に気に入られているその幼い容姿が!」 「・・・よく解らないけど、殿下は別に僕の容姿好きじゃないと思うよ?もし少しでも行為を持ってくれていたら、もう少し優しくしてくれたと思うし・・・」 邪険に扱われた覚えしか無い。今朝だって目障りだって言われてる。 「ならどうして・・・ご興味はあったが、離宮にいる間は我慢されていたのか?」 電化は気になる子の気を引きたくていじめるタイプだった? だから離宮から離れた今、手近にいたスザクを食べたのか? 「何かよく解らないけどさ・・・酔っぱらった殿下に膝枕してたせいで、殿下が起きるまで眠るどころか動く事も出来なかったんだけど、そんな僕に何で決闘申し込んだの?僕、何かした?」 「・・・は?」 「いや、は?じゃなくて、意味解らないんだけど」 「殿下が酔った?」 「すごく強いお酒煽って、べろんべろんに酔ってた殿下を見たの初めてだったよ」 「・・・膝枕してたのか?」 「酔って眠そうにしてたから、ベッドで休んでって言っても聞いてくれなくて、気付いたら僕の膝に頭乗せて寝てた」 「・・・」 「なに?」 鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしたジノは、突然いつもの明るいジノに戻り、笑いだした。 「そうかそうか!すまない、スザク!私の勘違いだ!手袋は返してくれ。この詫びはあとで必ずするからな」 「え?ああ、うん。よく解らないけど、お詫びは今日の警備関係全部引き受けてくれたらそれでチャラにするよ」 「スザク、寝むそうだもんな」 「眠しい疲れた。ああ、殿下今二日酔いでつぶれてるから」 「体調って二日酔いか。わかった、安全運転で休み休み移動しよう!」 日程には余裕があるからな! 「まかせたよ。僕、メイド長を呼びに行くから」 「待て、私が行こう。スザクは殿下の護衛だから戻った方がいい」 「そうだね、その方がいいかも。いま、殿下ものすごく機嫌悪いし」 「これ以上殿下の機嫌は損ねない方がいいからな!では行ってくる!」 頭が寝ぼけているスザクは、突然いつもの人懐こいジノに戻った意味と、このやり取りの意味に気づくことなく、変なの。と思いながらルルーシュのいる部屋へ戻った。 部屋には相変わらず机に突っ伏したルルーシュ。 間もなく出立の時刻だが、こんな調子で車に乗って大丈夫なのだろうか?やっぱり一度吐かせるべきかも。と、思わずため息を吐いた。 |